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第94話 スイートルームの夜景②

Autor: 花柳響
last update Última actualización: 2026-01-24 06:01:18

「っ……」

 ビクリと身体が跳ねるのを止められない。

 彼の手は、まるで傷ついた所有物の破損箇所を点検するかのように、背骨のラインをなぞって這い降りていく。

 その手つきは慎重で、壊れ物を扱うような優しさがありながら、決して逃がさないという執着に満ちていた。

「……寒くないか」

「……平気です。あなたが、熱いから」

 正直に答えると、征也は喉の奥で獣のように低く唸り、私のうなじに顔を埋めた。

 彼の唇が、首に嵌められたサファイアの首輪のすぐ下、脈打つ頸動脈に押し当てられる。

 熱い。

 彼の吐息が皮膚を焦がし、血管の中を流れる血まで沸騰させてしまいそうだ。

 私たちは夜景に背を向け、もつれ合うようにしてソファへと倒れ込んだ。

 ◇

 今日の征也の口づけは、いつになく焦れていた。

 唇を塞ぎ、舌を絡め合わせるたびに、彼が私の中に何かを探しているのが分かる。

 私がまだ彼のものであるという証拠。

 私が誰にも傷つけられていないという確信。

 そして、私が彼を拒絶しないという絶対的な保証。

 ごつごつとした指が、破れたドレスの隙間から入り込み、下着の上から胸を強く掴む。

 乱暴だ。けれど、そこにはなりふり構わない必死さが滲んでいる。

 エリカの悪意に晒され、大勢の好奇な目に晒されて辱められた私を、彼なりのやり方で「上書き」しようとしているのだ。他の誰の視線も届かない場所へ連れ去り、彼の痕跡で塗り替えるために。

「……莉子。俺はお前を……」

 重なる唇の隙間で、彼が何かを言いかけた。

 けれど、その言葉は形になる前に途切れ、代わりに深い溜息と共に私の首筋を強く吸い上げた。

 ちゅ、と湿った音が鼓膜を震わせ、新たな印が肌に刻まれる。

 鋭い痛みが走る。でも、その痛みすら、今の私には心地いい楔のように感じられた。

 破かれたドレスなんてどうでもいい。世間が私をどう嘲笑おうと構わない
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